生え抜き大学職員日記

日々の中でふと思ったことを書いていきます。

読書記録:虚談(京極夏彦)

『虚談』(京極夏彦、角川文庫)を読みました。

「談」シリーズはこちらが最新作になるようです。この短編集は収録先品のタイトルがすべてカタカナになっているのが特徴的ですね。何か意味があるのだろうか・・・。

全体的に不思議で、ちょっと怖い作品が収録されていて、まさに現代怪談というイメージを持ちました。

印象的だったのは「ハウス」です。途中までは伝聞の怪談として話が進むのですが、ある段階からガラリと雰囲気が変わります。読んでいるときに「あれ、もしかして・・・」と真相には気づいてしまうのですが、それでも読後に怖さが残るという、巧みな構成のストーリーだと思いました。

読書記録:眩談(京極夏彦)

『眩談』(京極夏彦、角川文庫)を読みました。

記憶が色あせないうちに書こうと思います・・・。

「談」シリーズの中では不思議系なお話が多め?な短編集な気がしました。不気味ではあるけどほのぼのした雰囲気もあり、読みやすかったです。

個人的に面白かったのは「シリミズさん」。実家に祀られている神様?に疑念を抱く主人公の身に次々と不思議なことが起こる・・・という感じのストーリーなのですが、結局「シリミズさん」とはなんなのかわからず。きっと読者の推測に委ねるという意図なのでしょう。主人公が淡々としているのも面白かったです。

読書記録:鬼談(京極夏彦)

数か月前になりますが、『鬼談』(京極夏彦、角川文庫)を読みました。ここまでの「談」シリーズとは違い、ホラー要素は少なく、文学的?というか芸術的?な作品が多い短編集だと感じました。

ネットでの著者インタビュー記事で見かけたのですが、「鬼」とは本来、存在しないことを表す言葉なのだそうです。たしかにそう考えると収録されている作品では、明確な鬼は出てこないし、作中の不思議な出来事に理由や説明もない点にも納得しました。

京極作品では、これまでも「鬼」について登場人物による解説や、主人公を「鬼」とされた人物にしたりと、度々鬼をテーマにしていますが、それほど概念としての鬼というのは幅が広く、表現しがいのあるものなのだろうなと思いました。

読書記録:冥談(京極夏彦)

『冥談』(京極夏彦、角川文庫)を読みました。

タイトル通り、怖い系のお話がいくつか収録されている短編集です。タイトルに「冥」と付くとおり、幽霊でもない、妖怪でもない、この世のものではない「何か」による怖さがテーマなのかなと感じました。

前回の『幽談』のように、前半は普通の小説っぽい雰囲気なんですが、「ここからどうなるのかなー」と思っているといきなりホラーに転換するお話もありました。おそらくですが、作者は「何気ない日常でもこういうちょっとしたことが起きたら怖いよね」ということを表現されようとしているのではないかと思います。

例えば自宅の中で、部屋の前を通り過ぎたとき、そこにいるはずのないものが視野の端に映り、その瞬間は気づかなくても少し経ってから時間差で「あれ、いま何かいた・・・?」と気づくような。実際にそんなことは起こらないと思いますが、想像するとちょっと怖いですよね。

本作の中で個人的に怖いと思ったのは「予感」でした。具体的に何か怖いものが出てくるお話ではなく、何か恐ろしいことが起こりそうな予感がする・・・と主人公が最終的に言って終わるだけなのですが、そこにいたるまでの主人公の描写などから、実は予感ではなく既に現実に主人公の身に起きているのではないか・・・と読者に想像させるようなお話でした。怖さは直接的に書かなくても伝えられるというのが新しい発見でした。

読書記録:幽談(京極夏彦)

『幽談』(京極夏彦、角川文庫)を読みました。

前回の『旧談』に続く「談」シリーズなのですが、全く方向性が違い、現代を舞台にした短編集という感じです。

内容としては、出版社の紹介文にある「妖しく美しい」雰囲気もありつつ、メインは怖い話でした。

特徴的なのは、怖いのが来るぞーという前フリがなくナチュラルに怖いものが出てくる点でしょうか。日常的な描写の中に突然怖さが入り込んできます。映像作品ではジャパニーズホラーという言葉がありますが、あれの小説版と言えばいいのかもしれません。

一番怖かったのは「下の人」ですね。設定自体は定番なものなのですが、人っぽくて人ならざるものが出てきますし、その表情の描写とか想像するとやはり怖い。

物語と同じことが自分の身に起きたら絶対怖いのですが、なぜか各話の主人公たちは淡々としていて、読んでいてなんだか自分の感覚が正しいのか、間違っているのかわからない不思議な感覚になりました。

京極夏彦さんは人間の負の面を描くのがうまい方だと思っているのですが、こういった明確なホラー系もしっかり書かれるんだなあと感じました。

読書記録:旧談(京極夏彦)

『旧談』(京極夏彦、角川文庫)を読みました。

本書は江戸時代の旗本、根岸鎮衛の随筆『耳嚢』から、いくつか話を著者が選び、それを現代風の小説にアレンジしたものです。

各話の最後には『耳嚢』の原文も掲載されており、小説との対比をしながら読むことができます。

著者は『耳嚢』から、よく考えるとちょっと不思議・怖い話をピックアップしているそうです。個人的には、「プライド」(義は命より重き事)が衝撃的でした。武士って大変だなあ…と。

一話一話がとても短い(大体2-3ページ)ので、サクサク読めました。でも原文を読むと、江戸時代の文章はやはり現代人の私たちにはわかりにくいですね…。

私も学生時代に江戸時代の歴史を専攻していたのでなんとなく覚えているのですが、この時代の文章は口語風なので一文がとても長いし、主語がコロコロ切り替わるしで、読解に苦労したものです(それでも中世以前より文章は平易なので楽な方とよく言われました)。これをアレンジするのは大変だったろうなと思います。

読書記録:積み木シンドローム(森博嗣)

『積み木シンドローム』(森博嗣講談社文庫)を読みました。実際に読んだのは8月なのですが、遅くなってしまいました。

森博嗣さんが年に一冊出しているエッセイ「クリームシリーズ」の2022年分です。このシリーズは軽く読めてほっこりするので好きです。

見開き(2ページ)のショートエッセイがたくさん収録されているのですが、短くても世の中の物事を視点を切り替えて考える、内容が濃いものが多く、一冊読むと著者の考え方がよくわかると思います。近年のクリームシリーズは、真面目なエッセイの中にちょっとふざけたエッセイもあり、そこがまた楽しいところです。

本作で1番印象に残っているのは、「人間は自分が望む状況に近づく」というものです。よく「⚪︎⚪︎だから××できない」と人は言いますが、その阻害要因(⚪︎⚪︎)が排除されたら本当に××するのか?というのは疑問だという内容だったと思います。

たしかに、人間は自分に甘いもので、本当に××というものをしなくてはならないと危機迫って考えているなら、どうにかして遂行しようとするものです。それをしないということは、しないままの状態でも良いと、意識的であれ無意識的であれ判断しているということなのでしょうね。この視点は著者の他のエッセイでも度々書かれており、読む度に納得します。

それにしても、今回も表紙の絵がかわいかったです(笑)